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大阪地方裁判所 昭和41年(わ)4057号 判決

主文

被告人藤枝を罰金刑一〇、〇〇〇円に処する。

右の罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人蒲池は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人藤枝は、京都大学農学部に在学していたもので、昭和四一年二月一九日、京都府学生自治会総連合に所属する同志社大学学友会が中心となって国鉄大阪駅中央改札口周辺で開く国鉄運賃値上げ反対の抗議行動に参加するため、同志社大学、京都大学、立命館大学の学生約一〇〇ないし一一〇名とともにバスで国鉄新大阪駅にいたり、同駅で電車に乗りかえて大阪駅に向かい、同日午後五時四五分ごろ、大阪市北区梅田町無番地国鉄大阪駅三号ホーム(巾員約一〇、三五メートル)に到着下車した際、「集まれ」などと呼びかけ、これに応じて同ホーム西階段売店の西側に集合した学生約五、六〇と互いに意思を相通じて、中央改札口にいたるまでの同ホーム上で国鉄運賃値上げ反対の意思を表明するため示威運動をしようと企て、旅客の安全および正確な乗降を確保すべき国鉄の業務を妨害することになるかもしれないと認識しながら、あえて二つの集団に分かれ、それぞれ最前列に携行してきた青竹(長さ約二、五一メートルおよび約二、一六メートル)を横向きに支え、四、五列縦隊にスクラムを組んで整列したうえ、被告人藤枝が先頭集団の列外で青竹を後ろ手に握って先導し、「わっしょい、わっしょい」と掛声をかけ、または「値上げ」「反対」とシュプレヒコールを繰り返しつつ、右売店西側から西階段北側(巾員約二、四五メートル)を通り東方の中央西階段に向かって小走りに約二二メートル行進し、これを阻止しようとした警察機動隊と午後五時五一分ごろまでもみ合った結果、同ホーム西階段およびその東方附近を一時混乱におとしいれ、大阪駅側をして約一〇分間にわたり同ホーム上へ乗客が上がるのを禁止する措置をとることを余儀なくさせ、もって威力を用いてホーム上における旅客の安全と正確な乗降を確保すべき国鉄の業務を妨害した。

(証拠の標目)≪省略≫

(検察官、弁護人の主張について)

被告人藤枝に対する公訴事実には、判示事実のほかに本件デモ行進の結果、被告人らが大阪駅まで乗車してきた八七九M快速電車(三号ホーム五番線に停車)および同ホーム六番線に停車中の五二七七普通電車の同駅発車を各一〇分遅らせたほか、後続の一三列車を同駅で一分ないし一〇分延着または延発させて国鉄の列車による輸送業務を妨害した事実が含まれている。≪証拠省略≫によると、右のとおり列車が延発または延着した事実が認められるが、≪証拠省略≫によると、大阪駅三号ホーム東端の運転指令室で勤務していた運転整理員は、当日の午後五時四一分ごろ、相当数の学生が青竹を持って新大阪駅から八七九M電車に乗車した旨の連絡をうけ、直ちに新大阪、吹田、茨木、高槻の各駅に対し連絡するまで後続電車を発車させないよう、また三号ホーム信号係には学生の乗った右電車とその前に到着する五二七七電車について到着後指示のあるまで出発進行の合図をしないよう、それぞれ指令し、学生の大阪駅到着前にあらかじめ電車の発進をとめていたことが認められ、その後午後五時五五分にいたり運転整理員が八七九M、五二七七電車に対して右指令を解除したことにより、八七九M、五二七七電車はともに定刻より一〇分遅れてそれぞれ午後五時五六分三〇秒、五八分三〇秒に発車したのであって、大阪駅側としては、過去五回位にわたり学生達がコンコースを中心として抗議行動を行なったことがあり、本件当日は電車で大阪駅へ来る旨の情報をうけ、三号ホーム上で集会、デモ行進などの抗議行動が行なわれることを予想したとはいえ、右のような措置が果して真に必要であったか、また必要としても最善の方法であったかどうかについて疑いなきをえず、この点からいっても右列車の遅延がすべて本件デモ行進による直接の結果であるかどうかは疑問であるが、その点はしばらくおくとしても、線路上でのデモまたは坐り込みなどによって列車の運転を妨害し、またはホーム上を相当広範囲にわたってジグザグ行進などを行なうことを企図した事例とは異なり、本件では、中央改札口内側に坐り込んで旅客に呼びかけ、一般人をも含めた集会を開いて運賃値上げ反対の意思を表明するなど大衆に対するアッピールに重点をおいたもので、ホーム上のデモは改札口にいたる手段にすぎず、その態度も中央改札口に通ずる中央西階段に向かってまっすぐ小走りに進む程度のものであったことは前掲証拠により認められるから、被告人藤枝らデモ参加の学生達には列車の遅延は予想しない出来事であったというべきである。もっとも、≪証拠省略≫には(たとえば鹿島顕二の調書にあるように)、ホームでデモを行なえばホームが混乱し、一般の乗降客に迷惑をかけ、さらには線路に落ちる人が出たりして電車の運行に危険であるので電車の発着の妨害になることはよく分かっていたというように、列車の運転そのものに対する業務妨害の犯意があった趣旨の記載があるけれども、これらはいわば理詰めの質問に対する答弁であり、むしろ≪証拠省略≫にあるように、列車遅延については当時予想さえしなかった、自分達の乗って来た五番線の電車はすでに出発したものと思っていた、六番線の電車には気付かなかった(五二七七電車の停車位置はその一輛目が中央階段北側である)、というのが自然な供述とみるべきである。したがって、被告人藤枝らには、列車の運行を妨げる意図はもとより、列車遅延の結果が発生することの認識があったものとは認められず、同被告人に対し列車遅延についての責任を問うことができない。

弁護人は、被告人藤枝には業務妨害の犯意がなく、かりに同被告人の行為が威力業務妨害罪の構成要件に該当するとしても、違法性を欠くので犯罪の成立は否定されるべきであると主張する。本件当時、三号ホームは、八七九M、五二七七電車への乗降、乗りかえ、待合わせの旅客でかなり混雑しており、被告人藤枝をはじめデモ行進に参加した学生達が右の状況を現認していたことは前掲証拠により認めることができるので、そのように混雑しているホーム上を青竹を支えにしスクラムを組んで約五、六〇名の集団が小走りに行進する場合、旅客との接触事故などの危険により、ホーム上を混乱させるおそれは大きいものといわざるをえず、被告人藤枝らはそのような事態の発生を認識しながらこれを認容して行進を続けたものと認められるので、ホーム上における旅客の安全と正確な乗降を確保すべき国鉄の業務を妨げるについて少くとも未必的な犯意があったと解するのが相当であるし、デモの態様からみてこれが威力にあたることはいうまでもなく、デモ行進によって国鉄の前示業務が妨害されたことも、前掲証拠により認められるように、ホームへ乗客を上げるのを約一〇分間とめる措置がとられたことに鑑みれば明らかであるから、被告人藤枝の行為は威力業務妨害罪の構成要件を充足するものといわねばならない。本件行為の動機、目的は、国鉄運賃値上げに反対する抗議行動の一環として行なわれたものであり、運賃値上げに反対の意思を表明することは、憲法が基本的人権の一つとして保障する表現の自由の範囲に属し、もとより不当な目的に出たものとはいえず、また本件において被告人藤枝ら学生の行なったデモ行進はきわめて短時間かつ短距離のもので、間もなく警察機動隊によって規制され、しかも旅客との衝突などの結果は発生していないのである。そこで被告人藤枝ら学生のとった方法について検討すると、表現の自由とくに集団的行動によって何らかの思想や意思を表現することには、他の各種の人権や自由との矛盾、衝突を伴うことが予測されるのであって、絶対無制限のものではなく、これを行なう場合には、その場所、時刻および形態のいかんにより相応の制約をうけることがあるが、その場合においても、制約は表現の自由そのものを削減するのではなく、対立する人権や自由との較量のもとに、いわばその乱用を制限する程度にとどめられるべきであることはいうまでもない。ところで、一般公衆の利用に開放されている道路などとは異なり、本件のように駅構内での集団的行動は管理者の意思に反して行ないえないのであって、本件にあっては、管理者たる国鉄側の警告、制止にもかかわらず、同種企業のなかでもとくに公共性の強い国鉄の、しかも乗降客の多いことではわが国でも有数の大阪駅で、土曜日とはいえ午後六時前という相当に混雑するホーム上で判示のようなデモ行進を行なったのであるから、これが社会的に相当として許容される手段、方法であるとは解することができず、前掲証拠により認められるつぎのような事情、すなわち、当日は国鉄運賃値上げ法案が国会で強行採決される情勢にあり、しかも新大阪駅からは私服鉄道公安職員による接触監視をうけ、下車したホームでは待機する警察機動隊、鉄道公安職員のほか多数の私服警察官(一六ミリカメラによる採証活動、引抜検挙、参考人確保などにあたる者多数が配置されていたことは記録上うかがえる)による警備体制を眼のあたりにした結果、改札口内側にいたるまでに規制排除され乗客者集会を開けなくなると判断し、被告人藤枝らが学生の結束を強めて改札口へ向かうべくデモの形態をとったのは、いわば自然の勢いであったといえないこともないという事情を考慮にいれても、被告人藤枝らの行為が実質的に違法性がないものということはできないので、弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人藤枝の判示行為は刑法六〇条、二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、本件の動機、目的、業務妨害の態様、実害の程度その他諸般の事情を考慮し、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人藤枝を罰金一〇、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して同被告人に負担させないこととする。

(被告人蒲池に対する無罪理由)

被告人蒲池に対する公訴事実の要旨は、「被告人蒲池は同志社大学経済学部に在学していたものであるが、被告人藤枝ら約六〇名と共謀のうえ、国鉄運賃値上げ反対の抗議行動として、国鉄大阪駅構内ホーム上でデモ行進などを行ない同駅の輸送業務を妨害しようと企て、昭和四一年二月一九日午後五時四一分ごろ、右約六〇名とともに長さ約二、一六メートル、約二、五一メートルの青竹二本を携えて国鉄新大阪駅より野洲発神戸行の八七九M快速電車に乗り、午後五時四五分ごろ同電車が大阪市北区梅田町無番地の国鉄大阪駅に到着するや、直ちに同駅三号ホームにおいて、国鉄側の警告、制止を無視し右青竹二本を横の支えにし五列位の縦隊で互いにスクラムを組み、同ホーム西階段売店前より「わっしょい、わっしょい」と掛声をかけ、あるいは「値上げ」「反対」と叫び気勢をあげながら、小走りで東に向って同ホーム上をデモ行進したうえ、約二〇数メートル行進した地点で、被告人らの隊列の前面に出てこれを阻止しようとした約六〇名の警察官の隊列を突破すべく、これに体当りし数メートル押しまくるなどして数分間にわたりもみ合い、折から数百名の乗降客で混雑していた右ホーム上を混乱におとしいれ、その結果、右八七九M電車のほか一四本の列車の同駅などにおける発着を約一分ないし約一一分間遅延させ、もって威力を用いて国鉄の業務を妨害した」というのである。

ところで、被告人藤枝ら学生約五、六〇名が大阪駅三号ホーム上でデモ行進をした事実はさきに同被告人について認定したとおりであるが、被告人蒲池が右デモ行進に参加したと認めるに足る証拠は全くない。≪証拠省略≫を合わせ考えると、被告人蒲池は、本件当日の午後三時三〇ごろ、同志社大学明徳館前で、大阪駅において国鉄運賃値上げ反対の抗議行動をするため、同大学学生約六〇名とともに貸切りバスに乗ったが、その際青竹二本が積み込まれ、京都大学、立命館大学で被告人藤枝ら右各大学の学生約四、五〇名を乗せた貸切りバスと立命館大学で合流したのち、名神高速道路を経由して国鉄新大阪駅にいたり、同駅から八七九M電車に乗って国鉄大阪駅に向かい、午後五時四五分ごろ大阪駅三号ホーム五番線に到着した同電車から学生約一〇〇ないし一一〇名と降りたが、当日の抗議行動に伴う検挙者の救援活動責任者となっていたため、直ちに中央改札口を通り、警察当局に交渉してもらうことになっている同志社大学学生部の職員と連絡をとるべく中央コンコースに行ったものであることが認められる。

検察官は、同志社大学学生の乗ったバス内では被告人蒲池が、京都大学、立命館大学学生の乗ったバス内では植村正隆が、主謀者間の事前の謀議にもとづき、それぞれ「新大阪駅から電車で大阪駅へ行く、ホームでスクラムを組んでデモをやる、改札口まで行ってその内側に坐り込む、京大が先頭で立命、同志社がこれに続く」と当日の行動の概要を指示し、現場の指揮者数名を指名し、指名された者がアジ演説を行ないインターを合唱するなどして意思統一を図り共謀を遂げたと主張している。

京都大学、立命館大学関係のバス内で、京都大学学生植村正隆が検察官指摘のような指示、指名をしたことは、≪証拠省略≫によって認めることができ、植村正隆も自ら≪証拠省略≫でこれを認めているところである。そこで同志社大学関係についてであるが、被告人蒲池がバス内の学生に対し運賃値上げの目的、実体それに反対する理由など当日の抗議行動の意義について述べたことは同被告人も認めるところであり、また≪証拠省略≫によると、中央改札口の内側で坐り込んで乗客者集会を開こうと呼びかけ、現場指揮者を指名したことも認められるのであるが、被告人蒲池がホーム上でのデモを指示したとの点については、田島規由の検察官に対する供述調書(辻検事)にその旨の供述記載があるだけであり、≪証拠省略≫では、被告人蒲池の発言は記憶がないとされ、また≪証拠省略≫によると、右は被告人蒲池の指示ではない、または誰の指示か不明である、あるいは右のような指示は記憶にない、というのである。ただ≪証拠省略≫には、被告人蒲池が改札口の内側で坐り込むというのを聞き、内側とは改札口にいたる通路、ホームを含むとか解した旨、また≪証拠省略≫には、よく考えてみると被告人蒲池の発言内容は電車を降りて改札口までデモをするというような言葉であったと思い出したので訂正する、ホームで何かやるとは聞いていない旨記載されているが、その内容を仔細に検討してみると、ともに被告人蒲池からは右のような指示がなかった趣旨と解せられるものである。そして右鹿島顕二らが当日の行動について自己あるいは仲間に不利益な事実をも相当詳細に供述し、しかも被告人蒲池が居合わせ発言したことをも述べたうえで、右のように消極的な供述態度を示していることを考えると、田島規由の検察官に対する供述調書の記載を採り、被告人蒲池がホーム上のデモを指示したと認定するには躇躇せざるをえないのである。そこで、被告人蒲池以外の者が右の指示をしたかどうかであるが、この点については、これを否定する≪証拠省略≫およびその内容のあいまいな≪証拠省略≫があって全く疑いがないわけではないが、≪証拠省略≫によると、同志社大学関係のバス内でも、ホーム上でのデモの呼びかけが被告人蒲池以外の者からなされたことが一応認められるのである。

右のように、京都大学、立命館大学関係では植村正隆により、同志社大学関係では被告人蒲池以外の者により、それぞれホーム上でのデモの呼びかけ、指示が車内マイクを通じて行なわれ、格別これに反対の意思を表明する者もなかったのであるが、そうだからといって、直ちに検察官主張のように各バス内においてホームでデモを行なう旨の共謀が成立したと即断することはできない。学生達のなかには、野田雅彦、竹川康則のように、ホーム上でのデモについて聞いていないと思われる者もあり、また望月上史のように、聞いていたにしてもホームに降りたとき忘れていてうっかり歩きかけ、「集まれ」の声を聞いて思い出し参加したという者もあることからもうかがえるように、各バス内での呼びかけ、指示はかなり不徹底なものであったと認められ、しかも当日抗議行動に行くバスに乗り込んだ学生のなかには、ホーム上でデモをした者でさえ、私用で大阪へ行くために便乗し、または人にすすめられ、立看板、ビラなどを見て、あるいはバスの乗車券を売りつけられてバスに乗り、抗議行動に参加することにしたという者があって、当日参加の学生が平素行動をともにする等して指揮者の指示にしたがうとの一体感のもとに行動していたものと認められる証拠はないうえに、大阪駅三号ホームで電車から降りた学生のうちの約半数はホーム上のデモ行進に参加していないのであり、もし不参加者がきわめて少数であれば、あるいは検察官のいうように心中不賛成であったとか、検挙されるのをおそれたためとか推測することも可能かもしれないが、約半数の者がデモ行進に参加していないという事実は、各バス内でホーム上でのデモ行進について意思統一がなされておらず、共謀が成立していないことの重要な証左といわねばならない。

もっとも、同志社大学学友会の名義で借りうけた二台のバスが同志社大学と京都大学とに別個に配車され、しかも学生の指示によりいったん立命館大学で合流したうえで新大阪駅に向かっていることなどからみて、各大学の責任者の間であらかじめ当日の抗議行動について打合わせがなされていたことは疑う余地がないけれども、その内容がホーム上のデモを含むものであったと認めるに足る証拠はなく、むしろ前掲証拠によると、国鉄運賃値上げに反対する京都府学生自治会総連合に加盟する各大学の学生達は、昭和四〇年一二月一五日ごろから昭和四一年二月一五日ごろまでの間に約五回にわたり、国鉄大阪駅でコンコースを中心にして値上げ反対の抗議行動を行なってきたが、いずれも警察機動隊に規制されたため十分な効果をあげることはできない結果に終り、しかも二月一九日には国会で審議中の国鉄運賃値上げ法案が強行採決される情勢にあったところから、当日の抗議行動を最終のものとして、従来のようにたやすく規制されないようにするため、できれば改札口内側に坐り込むなどして旅客に訴え、一般人をもひき入れて値上げ反対を表明する乗客者集会を開くことを企図していたものと認められるのである。検察官は、ホーム上でのデモ行進について事前の共謀がなされていることを推認させる事実ないし状況として、(一)被告人らはできるだけ多数の人人の注目を集めるためにも過激なホーム上のデモを行なう必要があったこと、(二)バスでそのまま大阪駅に行かず新大阪駅で電車に乗りかえるという費用と手数のかかる方法をとっていること、(三)青竹を用意していること、(四)大阪駅では下車後直ちに青竹を支えにしてデモ行進をしていること、(五)とくにホームでのデモを回避しなければならない理由がないことをあげているが、(一)については、本件抗議行動の目的は、被告人蒲池も述べているように、線路上でのデモ、坐り込みによる列車運行の阻止など直接的に国鉄業務を妨害することではなく(もしそうであるならば下車後線路上に飛び降りるなどのことは容易になしえたであろう)、一般旅客に訴え旅客を加えて反対集会を開くことにあったとみるべきであり、改札口内での坐り込み、集会は機動隊の規制を困難にするために考案された方法とみられ、これが成功すれば大衆にアピールするとの目的は達せられるのであるから、当初からホームでのデモを企図していなかったと解しても別段不自然ではなく、(二)については、大阪駅までバスで行き入場券を購入して改札口内側にはいる方法と比べて、手数のかかることは否めないにしても、費用の点でとくに差異があるとは認められないうえに、前掲証拠によると、被告人らとしては国鉄、警察当局のいわば裏をかくつもりで本件のような方法を採ったものとも考えられるのであるから、検察官の主張はあたらず、(三)については、過去コンコースでの集合でも逮捕者がでており、改札口内側の集会とても機動隊による規制をうけることが予想されたので、それの防禦として青竹が用意された、との被告人らの弁解も理由のないことではなく、(四)については、大阪駅で下車した学生のうち約半数の者がデモに参加していない事実を考えるべきであり、さらに(五)は理由にならない理由というべきであり、学生の立場に立って結果的にみるならば、ホーム上でのデモは改札口内側で集会を開く事前に規制の理由を与えるにいたったもので、むしろ避けるべきものであったとさえいうことができるである。これを要するに、検察官の指摘する右の事情およびその他の事実を綜合考慮してみても、ホーム上のデモがバス内を含めて事前に計画謀議されていたとは到底認めることができないのである。

したがって、本件デモ行進は、さきに被告人藤枝の罪となるべき事実として示したように、ホーム上での現場共謀によるものというほかはないが、電車から降りて直ちに中央コンコースへ向かい、現場共謀に加わる余地のない被告人蒲池については、本件犯行について共謀があったとはいえず、結局犯罪の証明がないことに帰着するので、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をする。

(裁判長裁判官 児島武雄 裁判官 金田育三 山田利夫)

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